3日後
花咲川女子学園高等部廊下
寿音(光に誠心誠意謝罪しよう。
そして、何が何でも光を連れ戻す!
光のいないバンドなんて考えられない!)
都立芸術学院高校
寿音(ここが光の通っている都立芸術学院高校か。
あいつの事だから、音楽室にいるはず。
さて、音楽室の場所を教えてもらわないと。
ん?あれはレイヤ。
ちょうどよかった。)
「すみません。」
レイヤ「はい。」
寿音「音楽室の場所を教えてもらえるかな。
常盤光という生徒がいるはずだけど。」
レイヤ「あなた、常盤さんのお友達?」
寿音「ちょっとした知り合い。」
レイヤ「音楽室まで連れて行ってあげる。」
寿音「ありがとう、助かるよ。」
音楽室前
レイヤ「常盤さんがいるかどうか見てみるね。
(光がいるのを確認して)いるわね。
話してくるからちょっと待ってて。
(光のいる場所に向かって)常盤さん、あなたに会いたいという花咲川の生徒が来ているんだけど。」
光「花咲川?
誰かな。」
レイヤ「通しても大丈夫?」
光「はい、ありがとうございます。」
レイヤ「(寿音の方を向いて)それじゃ、私はこれで。」
音楽室に入る寿音
光「こ、寿音(一瞬、強張った表情になる)!?」
寿音「忘れ物届けにきたくて寄ったんだ。
それと、話したい事があって。」
光「話したい事?」
寿音「(深く頭を下げて)この間は本当にごめんなさい!
光の気持ち、何一つ考えていなかった。
またバンドに戻ってきて下さい!
お願いします!」
光「何も間違ってないよ。
私はあのバンドに加わるレベルじゃなかった事を思い知っただけ。
もしかしたら、バンドで活躍できるかなって淡い期待をしていたけど、現実を知る事ができてよかったよ……。」
寿音「それは違う!
あたし、お前に嫉妬していたんだ。
初めての音合わせでお前のギターの演奏に震えが止まらなかった……。
超一流の講師による英才教育を受けてここまできたあたしには手が届かなくて悔しかったよ。」
光「そんな事ないよ。
寿音のドラムは神がかっている。
洋さんが教わったプロのドラマーでも寿音に勝つのは難しいはずだし、他の楽器の演奏も凄すぎて自信なくしたよ。」
寿音「言い過ぎだぞ。
本題だけど、よかったらあたしの話聞いてくれるか?」
光「……いいよ、聞かせて(表情が和らぐ)。」
寿音「その前にドラム演奏してみてくれないか。」
光「え、何で?」
寿音「練習の時あまりドラムを演奏していないから、じっくり聴いてみたいんだ。」
光「寿音の演奏に比べたら全然だから演奏できないよ。」
寿音「そう言わずに頼むよ。
ベース演奏するから。
リズム隊によるセッションと行こうぜ!」
光「ベースはチューニングしてあるからすぐ使えるよ。」
寿音「よっしゃ!
自由に演奏してくれ。
しっかりついていくぞ!」
演奏終了後
寿音「すごいぞ!
プロでもここまでの演奏は難しいぞ。
佐藤や大和麻弥に匹敵するレベルだ。」
光「佐藤?」
寿音「RASのマスキング。
お前ならあいつの狂犬ぶりにも真っ向勝負できるはず。」
光「それは言い過ぎだよ。」
寿音「そんな事はない。
誰からも教わらずにそこまでできるって、悔しいけど認めざるを得ない。」
光「ところで、話は?」
寿音「ああ、そうだった。
せっかくだから校庭で話さないか。
外の空気吸いながらの方がいいし。」
校庭
寿音「ほら(麦茶のペットボトルを渡す)。」
光「私が麦茶好きなの知っていたんだ。」
寿音「そりゃ、練習の時にいつも飲んでいるのを見ていればな。」
光「で、話って。」
寿音「あたしは親父に援助してもらって、中学の時から音楽の英才教育を受けていたんだ。
今田建設って聞いた事あるか?」
光「もちろん知っているよ。
有名だから。」
寿音「あたしの親父がそこの社長。」
光「えっ!
社長令嬢なの?」
寿音「そんなに驚かなくてもいいだろ。
ちなみに、弦巻財団の下請け企業なんだ。
同じクラスに弦巻こころって奴がいるんだけど、あたしはどうも苦手でね。」
光「弦巻こころって、あのハロハピのボーカル?」
寿音「苦手なんだけど、親父がこころの父親にお世話になっているから無碍にできなくて困っているんだよ。
あたし、学校では友達作らないようにしているから。
バイト先で仲良くなったプロのミュージシャンならいっぱいいるけどな。」
光「私よりいいよ。
私なんていつも一人だし……。」
寿音「話を戻すぞ。
光、お前のミュージシャンとしての実力は相当なものだよ。
誰からも教わってないのに、あたしが1年以上もかかってようやく身につけた演奏のテクニックを軽々と披露していたから、正直悔しかった。
あえて言うなら、ほんのちょっとだけ荒削りな部分がある。
でも、それもメンバーのアドバイスに耳を傾けたらすぐに改善するよ。
あんな事があったから、あたしの言う事に聞く耳持つ必要はない。
でも、希良やアレックスに洋姉の意見はしっかり聞いた方がいい。
あの3人の実力はあたしの知っているプロのミュージシャンよりもレベル高いぞ。」
光「寿音のアドバイスを聞かないなんて言ってないよ。
でも、私もうあのバンドには戻れないよ……。
ひどい事言っちゃったから……。」
寿音「自分に素直になってみろ。
大切なのは自分がどうしたいかだ。
これだけははっきり言っておく。
あたしも含めてみんな待ってる。
だから、戻りたくなったら戻ってこいよ。
光「寿音……。」
寿音「とりあえず、あたしはもう行くよ。
みんなが待ってるから。」
光「今日はありがとう……。」
寿音「一つアドバイスするなら、ドラムに限らず楽器はスローテンポで毎回最初に練習するといい。
結構難しいぞ。」
光「ありがとう、やってみる。」
寿音「それから、みんなといる時ぐらいサングラスは外したらどうだ。
誰も洋姉とは間違えないからな。
じゃあ!」
校庭を去る寿音